2012年2月20日月曜日

私は自分のインタラクティブCDを作ることができ

1997年 文化庁メディア芸術祭 デジタルアート[インタラクティブ]部門 優秀賞 空にとけるルビーになりたい

──ここ(久里浜の仕事場)からの見晴らしは素晴らしいですね。遠くに海が見えて。やはり制作への影響は大きいですか。

モニタにずっと向かっていると、ストレスを感じるものなので、少しでも緩和されるというか、それ以上に受ける気持ちよさは大きいです。都心から離れて多少不便でも、いい所だな、と思うことは多いです。

──何か子供の頃の思い出はありますか。

小さい頃は、週末になるとよく家族で相模川の近くの祖父母の家に行っていました。月曜日の朝になると、父が会社に行きますから、早朝5時くらいから、寝ているところを起こされて、車に乗って、鎌倉や江ノ島のあたりの海を通って帰っていくんです。薄目を開けて半分寝ていながら、夜明けの海を通ってくるという感じでした。思い出というか、今もずっと好きで持っている世界観がこの頃のものに近いと思ったりします。

──中学校や高校の頃は、どういうふうに過ごしていましたか。

高校あたりからは、マイペースな傾向が強くなっていました。好きなことにしか興味を示さなくて、授業中は寝ているか、好きな詩などを書き写していたり。今思うとおかしいんですが、当時エレクトーンを習っていたけど、ピアノの鍵盤を弾きたい思いが強くなったので、授業中に教室を抜けだして、体育の授業をやっている横で体育館のステージのピアノを弾いていたこともありました。でもまだ未来は漠然としている感じで、時々すごく無気力になっていたんです。その頃、空の写真を撮って友達に見せたり、そういうことをしだしてからは、やっぱり自分は将来はものをつくる人間になりたいんだと思いはじめて、美術の予備校に通うようになったんです。そうしたら世界が変わって、途端に楽しくなりましたね。本当に、それ� ��でよく寝ていてよかったっていうくらい、急にがんばるようになりました。

──当時は、どういった詩がお好きだったんですか。


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谷川俊太郎さんは昔からずっと好きです。 その頃は、後に知るほどいろんな詩人は知らなくて、歌の歌詞とか……。

──その頃は、どういう音楽を聴いていましたか。

高校のときはユーミンが大好きでした。あの頃、『セブンティーン』っていう雑誌にエッセイが載っていて、音楽を作るときに、まず映像から入るというようなことを書いていたんです。たぶん、「夕涼み」という曲なら車を洗って水を撒いて、そういうひとときの映像、そこから匂いたつみたいに、曲ができちゃうというようなことが書かれていたんですけど、すごく素敵だなって憧れました。自分が感じたもの、好きな雰囲気などを守るように世界を作れることに。わたしもそういうことができたら本当にいいなって。その時に初めて詩と映像の結びつきを意識して、映像って素敵だなって思ったのを覚えています。

──ハシモトさんのショートショートの作品を読むと、すごく映像的ですよね。逆に映像の作品からはテキストが浮かんできます。

そう言ってもらえるとうれしいです。それは自分の中では大事なことで、言葉で出来ることと、言葉じゃ出来ないことを映像でやるということ。今はそれを別々のほうからやっているんですけど、この先、それをどうやって融合させることができるのかは考えています。

──大学の頃からはジャズを良く聴かれていたということですが、ジャズとの出会いを教えてください。

エレクトーンを習っていた子供の頃から、ジャズの持っている響きのテンションにすごく惹かれていたんです。ドミソのような素直な和音と違う、陽の光が急に変わるような、空間が少しひずんだような、そういう感じがすごく好きでした。ちょうど大学に入って、アパートにひとりで住みはじめたとき、テレビもビデオもなかったので、部屋ではほとんど音楽を聴いていたんです。その時、キース・ジャレットの音楽に出会ったのが衝撃的でした。


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──キース・ジャレットといえば『ケルン・コンサート』ですか。

特に好きなのは『生と死の幻想』というアルバムです。すごい生命力で、どんなときでも、聴けば細胞がよみがえってくるような……。圧倒されます。ぶつかり合う音が調和して、美しい色彩を見せるような感じなんです。

──「すべての芸術は音楽の状態に憧れる」という言葉がありますよね。

本当にそう思います。音楽をかけたときにできる空気感みたいなものを、映像で作りたいという思いがすごくあります。もちろん最終的には映像は音楽と一緒になって完成することが多いものだけど、私はわりと無音の状態から映像で時間の流れのようなものを作っていくことが好きなんです。

──かたちを残さないということですか。

映像を作っているときは、映像を感覚として残したいという気持ちが強いので、それを一番念頭に置いています。何フレームという違いなんですけど、自分がぴったりこれだと思うまで、「ある感覚」が出るまで、何度もやり直します。最後に「これだ!」と思えたときには本当にうれしくなりますね。その感覚や感情が、見た人に残ればいいなと思っています。

──静止画の作品の場合はどうですか。

映像を作っている反動でか、静止画の時は、できるだけ長い時間を絵に閉じこめたい気持ちになることが多いんですけど、デジタルで描いた静止画をどうやって見せるか、難しいですよね。モニタの中にあるものだから。絵画の場合、筆圧や素材感の魅力は大きな要素ですが、私にとっては、物質感のないほうが、自分の内面と直結するもうひとつの空間があるような、そんな感じがするんです。描いているときは、何で描いてあるのかわからないようにしたいと思っています。

──モニタは透過光ですよね。透過光がお好きなのではと思いました。


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そうですね。例えばルネ・ラリックのガラス、ああいうものは、現実に存在するものの中では、すごく好きなんです。自分とは全然違う仕事だけど、ああいう綺麗さって、自分の好みの色・光・形が、現実として凝縮しちゃったものみたいに思えて、憧れます。立体の作品を作るときには、すごく影響されていると思います。

──絵画ではどういった画家がお好きですか。

本当にたくさんですね。いろんな画家から影響を受けていると思います。ジョージア・オキーフ、アンリ・ルソー、フリーダ・カーロも好きですし、藤田嗣治や斉藤真一さんも。

──金子國義のような、エロティックな絵画はどうでしょう。

目をそむけたくなるようなものも確かにあったと思いますが、金子國義さんの絵は人物が、ぽんといるだけで強烈な魅力を放っていると思うからすごく好きです。

──ダンサーの勅使川原三郎さんもお好きだということですが。

『骨と空気』という著作が好きです。風を受けて、心はどう動くとか、坂道を下っていくような感覚で踊るとか、寝た子を起こすように踊る、とか。なんていうか、ひとつの詩の中で、身体が気持ちになっているような印象を受けます。だから、なぜそうするのかというのが、まるで風景を見るようにわかるんです。ご本人にしかわからないような葛藤も書かれていますが、表現に向かう真摯な気持ちが伝わってくるんです。

──作品の中に人物が出てくるとき、自分が投影されていると思いますか。

どうなんでしょう。その人物を通して、感情などを表しているからやっぱりそういうところはあると思いますね。

──作品が生まれるきっかけは、どういう時ですか。


その時抱えている、どうやって表現しよう? と思っているイメージが、どんなきっかけで作品に発展するかっていうのは一慨には言えないですね、何でもない普通の時もあるし、モニターに向かっているときに偶然性から生まれることもあります。偶然が起こるようなことをしてみる、というのもありますけど、ハッとするような空気感や、呼吸の感じとか、違う形が見えることがあるので、そうしていること自体が映像の中にいるようだったりするんですよね。それはコンピューターで制作する理由だったりします。

──「自分を癒すために制作している」というようなことを以前おっしゃっていましたが、今はいかがでしょう。

癒すというより、単純に見たいものをつくるということですね。目に新鮮なものや、自分が美しいと思うもの。テーマは自分の成長によって変わっていけば、と思います。発表の形態についてはもっと考えなくてはと思います。昨年は、雨粒をモチーフにした映像の小さなインスタレーションをしたのですが、次はもう少し大きい空間を持ったイメージで温めています。制作は時間が掛かることが多いけれど、確かに自分が早く見たいですね。



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